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No.191 《飼育と管理》

12月のある晴れた平日の午後、私は高円寺駅前にある喫茶店にいた。

念願だった、ある人物にインタビューする為である。

 

 

その人物とは、熱帯魚の卸問屋リオで、今年から仕入れと生体管理を任されている〇主任である。

ならず者で名の通った人物であるので、インタビューのオファーを受け入れてくれたのは、有り難いが・・・・

 

どんなインタビューになるのか、まったく予想がつかない・・・。

 

 

 

そんな不安の中、彼は予想外にも約束通り、時間ちょうどに現れた。

二日酔いのせいだろうか⁉

おぼつかない足取り、腰を引きずるように歩く・・・

 

しかし眼光は鋭い・・・

 

ここに来る途中何人か〇〇〇〇来たのではないだろうかと疑いたくなる・・・

 

まるで人斬りの眼である。

 

 

 

 

軽く挨拶を交わした後、彼はソファに腰を下ろす。

腰の位置を何度も変え、落ち着かない様子である。

 

・・・機嫌が悪いのではないだろうか?

 

不安そうに見つめる私に気付いた彼は、

『最近、腰の調子が悪くてな・・・』

と、先ほどまでとは別人の様な優しい目で私に話しかけてくれた。

 

『今日は何でも聞いてくれて構わない・・・』

『但し、答えるかどうかは・・・・俺が決める。

『サッサと始めよう・・・手短に頼むぜ。(笑)』

 

優しい言葉ではあるが、緊張が解けない私には何か釘を刺されたような心持である。

兎に角、機嫌を損ねぬように速やかにテーブルにICレコーダーを置き、インタビューを開始した。

 

 

 

 

『まず最初にお聞きしなければならないのは、やはり今年から生体の仕入と管理を任されたと言う事で、

今までとは何か変わったことはありますか?』

 

〇主任

『変わった事?何もないね。』

『俺は与えられた仕事に誠実に向き合い、そしてベストを尽くすだけさ。』

『今までそうしてきたし、これからもそうさ・・・』

 

まるで、トップアスリートのような答えに驚き、次の質問を見失っている私に構わず彼は続けた。

 

 

〇主任

『生体の管理ってのは、奥が深いんだ。生き物を飼った事がある奴なら誰でも知っている事さ。』

『然し、やればやる程、その深さを思い知らされるんだ。』

『何かしらの手がかりが見えても・・・直ぐにまた別の問題が現れる。まるで、オレを嘲笑うかのようにな(苦笑)』

『オレは幼い頃から、沢山の生き物を飼ってきた、その上に今の自分があるんだ。飼育するだけなら誰にも負けない。然し、会社で何百種類、何万匹の魚を一度に面倒を見るのは、まるで別物さ。『飼育』と『管理』とは根本的に違うのさ。』

 

その時、ウェイトレスが注文を取りにやって来る。

彼はロイヤルミルクティーのホットをオーダーした。

 

 

私の心配をよそに、自ら核心に触れて来る彼の話を遮られてしまった。

私は、改めて驚きを表し、話を戻した。

 

 

『一度に何万匹もですか⁉』

『□私なんかは、家で数匹の金魚を飼うのにも焼いていますヨ・・・』

 

〇主任

『大事な事は、数じゃない。さっきも言ったが、[飼育]と[管理]は、別物なんだ。』

『オレ達の仕事は、誰かに飼われる為に輸入された熱帯魚を少しでも良い状態で、届ける為に一時預かるだけなのさ。余計な事はしてはいけないんだ。』

『余計な事をすれば、問屋からお店に移動した時に、その環境の変化で魚にストレスを与えることになるだろう?オレ達は海外の水から日本の水に順応させる。それを全国のショップに送り届け、ショップさんがその地域の水に順応させる。シンプルに表現すれば、そんな事だよ。』

 

 

運ばれて来た、、ミルクティーを見て彼は言った。

『温かいミルクで紅茶を淹れるからミルクティーなんだ。

・・・詰まりは、それだけの事さ。』

 

 

意味を飲み込めない私は、彼に再度尋ねずにはいられなかった・・・

 

 

『それが・・・違いですか?[飼育]と[管理]との?・・・』

『ミルクティーが・・・?』

 

 

〇主任

『そうだな・・・もっと分かりやすく言えば・・・』

『飼育は足し算で、管理は引き算・・・と言う事だ』

 

彼は澄み切った12月の青空を見つめて・・・そう言った。

 

 

 

今回の取材で、何か大きなものを手に入れた気がする。

きっと、このインタビューを読んで頂いた方もきっと同じ感想だろう。

それは、きっと何かを成し遂げた者だけが他人に与えられる物である。

 

 

・・・勇気である。

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